出生地や育った土地を自ら選ぶことは難しい。
そうなるとその場所との関係は“ご縁”の一言に尽きて、だからこそ地元を愛する人に私は惹かれる。
静岡県修善寺温泉で出会った美葉子さんは、まさに修善寺の申し子と言いたくなるほど修善寺の文化や雰囲気が温泉のように彼女から溢れていました。
地元に戻った美葉子さん
生まれも育ちも修善寺。
山に囲まれた温泉街には数々の著名人が訪れた歴史があり、中央を流れる川の音が優しく辺り一帯を包む。物心つく頃から、この環境が普通だった美葉子さん。彼女の生い立ちを聞くだけで、何か物語が始まる予感にワクワクしてしまう。
芸術家の両親を持ち、自身も大学ではデザインを学びます。そして、久し振りに地元に帰省。
「通りにはシャッターが下がってるお店が多く、漠然とこの先ここはどうなるんだろうと思いました」と、
話す美葉子さん。賑わっていると思った地元の町並みが悪い方に変化していた。その事実を目の当たりにした時、彼女の心には既に一つの想いがありました。
「修善寺が盛り上がることがしたい」
地元が何よりも育てたのは彼女の地元愛かもしれません。想いが生まれた数日後には空いていた現在の店舗を借りることになります。そうして2017年6月、修善寺 燕舎(つばめしゃ)はお土産屋さん、ギフトショップとしてオープンしたのです。
店内には美葉子さん自らデザインしたおみやげのほか、地元在住クリエイターさんたちによる刺繍雑貨や木で作った日用品が並び、今でも幅広い分野の芸術家が集まってくる修善寺温泉の性質が窺えます。
まずは取り組んでみること
大学卒業後、最初の仕事として自分の店舗を持った美葉子さん。商品を準備したり、手続きをしたり。オープンしたと思ったら、それは新たなステージの始まりで、今度は売り上げという課題も出てくる。思わず「躊躇しなかったのですか?」とその果敢な姿に賞賛しつつ、水を差す質問をしてしまった。
「大学でプロダクトデザインを勉強していたのが役立ちました。そこでは試験的にまず作ってみて、様子を見ながら対応することを学んでいきます。なので、始めることは大きなことではないんですよ」淡々と話しますが、知識や気持ちが行動に結びつけられるどうかは別問題です。
もし流れが速い川を前にして多くの人が立ちすくんでも、きっと美葉子さんの手には高跳びの棒が既にあるような。その驚くほど軽やかでしなやかな身のこなしは間違いなく彼女の武器です。
つばめに秘めた願い
店名の燕舎は春に毎年修善寺温泉を訪れるつばめから。
このつばめのようにお客様もまた修善寺に帰ってきて欲しいという願いが込められています。
つばめのように戻って来て、改めて修善寺の良さを実感した美葉子さん。
今度は新たなつばめたちを迎えようと居心地よい空間を作ります。
地元の人も立ち寄る場所へ
趣ある修善寺温泉が凝縮したような古い家具が店内に置かれていますが、これは美葉子さんがご実家で見つけてきたもの。修善寺温泉で時を刻んだものだからこそ、お店にも自然と馴染みます。
玄関のそばには、会話する時にぴったりな椅子も。これは地元のおじいちゃん、おばあちゃんが気楽に立ち寄って話せるように準備したもの。地元同士のつながりが増えれば町も活気づく、だからお店があることで出掛けるきっかけになってほしいと燕舎は地域コミュニティの場という一面も目指します。
地元の人たちも手土産になるように、そう意識して美葉子さんはおみやげをデザインしています。いかに自分たちが素敵な場所で暮らしているのか、きっと嬉しいような照れるような気持ちにさせてくれるはず。観光客はもちろん、地元の人たちも美葉子さんにとっては大切な人たちなのです。
彼女のストーリーは続く…
地元を盛り上げたいという想いでお店を始めた美葉子さん。お店ではなく町全体を見据える広い視野の持ち主は多くの人たちと協力し、“やりたいこと”を実現していきます。
例えば、手作り作品を集めた青空市場、修善寺温泉だるまっ子市を企画。達磨山(だるまやま)の麓に修善寺温泉があるため、この地域で育った子供たちは“だるまっ子”と呼ばれているので、その名前を起用しました。
修善寺温泉の名所を集めたバッグは試作を作っている途中。
「他にも目の前の道を土日は歩行者天国にして、皆さんが安心して町を行き来できるようにしたい」と目をキラキラにして話します。あれもこれもと尽きることない楽しそうなアイデアが燃料となり、瞳の輝きがさらに増してきます。
もし困難なことが起きても、だるまっ子の彼女なら大丈夫だと思えてしまう美葉子さん。持ち前の軽やかさを武器に、これからも七転び八起きで乗り越えていく姿に応援です。
修善寺 燕舎の基本情報
住所︓静岡県伊⾖市修善寺825-2
営業時間︓10:30〜17:00(たまに21:00)
定休⽇︓⽉曜・⽊曜
アクセス︓温泉場バス停より徒歩約3分、修禅寺より徒歩約3分
http://tsubame-sha.net/