真っ暗なたんぼ道が心細かった。
Googleマップと位置を照らしながら、そろそろ目的地が見えてくるはずと道の先に視線を移すと、
まるで灯台のようにオレンジ色の光が“ここだよ”と教えてくれ、一心不乱に目指す。
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近づくにつれ聞こえるキュッキュと床の擦れる音、そしてホイッスル。
今日の主役、頑張る人は体育館で会えます。
バスケコーチの翁長明弘さん
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翁長明弘(おなが あきひろ)さん。通称アキ。
実は私と彼のご縁は意外と長い。
アメリカの大学で私はジャーナリズム、アキはバスケットボールを学んでいる最中に出会った。
沖縄出身の彼は小学5年生でバスケと出会い、そのスポーツは彼に日本を離れさせる決心までさせた。
“もっと上手くなりたい、プロになりたい” という純粋な想いを携えて。
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カリフォルニアのカレッジバスケで学び、卒業後は日本に帰国。
その後、描いた通りに日本バスケ界でプロ選手として活動してしまうのだから、
彼の身体能力の高さ、実行力には舌を巻いてしまう。まさか友達からプロスポーツ選手が出てくるなんて。
しかし、渡米前に手術を繰り返していたアキの身体はプロになった時点で、既に時限爆弾な状態に。
つくばロボッツ、福島ファイヤーボンズ、アースフレンズ東京Zと全国を巡り、2016年に引退。
引退と共に新章がスタート
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2018年より、バスケットボールのコーチとして活動。小学校と中学校を中心にバスケスクールを開催し、
クラブチームも男女ともに立ち上げてしまう。
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「自分でやりたい事がやれない環境なら意味がないし、だったら自分で始めてしまおうと思って」
淡々と語るけれど、当初は知名度もなく、参加する子供たちも少数。
指導はもちろん、営業、会場手配など全てを一人で行っていた。
頑張れる源とは?
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やることの多さに打ちのめされ、思わず「なぜそこまで頑張れるの?」と聞いてしまう。
「自分が教わったこと、学んだことを伝えたいから。
アメリカ時代のコーチや、プロ選手だった時のコーチ。それにファンとか色々な人たちにお世話になってて…
だから今度は自分が出来る事をやっていきたい。それに子供たちが試合に勝ったり、
練習で新しいことが出来たりすると喜んでくれるから、もっと喜ばせたくなる」と言葉にも熱が入る。
コーチとして大切にしてること
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徐々に口コミで評判が広まり、縁あって高校で女子バスケチームをコーチする機会に。
皆が勝ちを諦めた試合でも、アキは最後まで選手たちを信じると言う。
多感な時期に、自分じゃない誰かが自分以上に自分の事を信じてくれる。こんな幸運なことはないと思う。
それにひとつひとつに自分の考えを持つこともアキは子供たちに大切なことだと伝えようとしている。
試合でのハーフタイム(休憩時間)、どんなに白熱した試合でも最初の5分間は選手同士で話し合うようにさせている。
どんなパスが欲しいのか、どんなプレイなら勝てるのか。
実際に戦ってる本人たちが考え、チーム一丸となって勝利を掴もうとする。
子供たちがアキから学んだことはバスケだけに関わらず、きっと今後も彼らの役に立つもののはず。
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「自分は能力的にそんなに良いプレーヤーじゃなかったから、
どうしたら試合で勝てるのかを必死に考えていた」と選手としては辛い事実も把握している。
だから、どんな練習をすれば上手くなるのか、練習一つひとつも実戦に活かせられるよう余念がない。
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「この位置からだとシュートは入りにくいから、その前にシュートかパスを選んだ方がいい」
「練習で普通にパスをするんじゃなくて、フェイクも入れるようにして」と頻繁に声が飛ぶ。
失敗したり、うまくいかなかったりしても根性や能力で個人を責めず、
成功する理屈を教えるスタイルはアメリカで学んだもの。
スクールでは自らデモンストレーションを行い、子供たちも真剣にアキの一挙一動を見つめる。
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これからを支えるアキの夢
生徒数も着々と増え、基盤も出来上がりつつある今、アキの夢は体育館を建てること。
その根源には、誰もがもっとバスケットボールを楽しめるようにしたい想いがある。
アキの快進撃はまだまだ止まらなさそうで、こちらもワクワクしてくる。
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バスケを愛し、バスケで人の縁を繋いでいくアキ。きっとバスケの女神様も彼のファンのはず。
冒頭で登場した、真っ暗な闇の中で進むべき道を教えてくれた体育館のように、
これからもアキが灯台となって子供たちの道を照らすのでしょう。
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