「ジーンズは地球着」らしい、ある人曰く。最初は「それはそれは随分大げさな…」と思ったけど、街を歩けばジーンズ姿の人は必ずいるし、子どもが履く姿は可愛らしく、モデルさんが着こなしは凛々しく、おじさんには親しみを感じる。
つまりは着る人を選ばないということで、確かに一理あると思い始めたのは国産ジーンズ発祥の地として名高い岡山県児島にある、ジーンズを扱った唯一のテーマパーク「ベティスミス ジーンズミュージアム&ヴィレッジ」に訪れたおかげです。
国産ジーンズ発祥の地「児島」
芸能人御用達のブランドがあったり、日本遺産に認定されたりしたことで、一気に知名度を上げた岡山県の児島(こじま)。繊維産業で栄えた歴史があり、今では自らデザイン・製造・販売を手掛けるジーンズショップが集結し、自分だけの1本を求めに国内外からジーンズ好きが訪れます。
児島駅に降りたら、階段や壁、さらにはロッカーにまで巨大ジーンズのイラストが描かれ、極めつきは何本ものジーンズがアーチになっている駅前。イタリアやスペインでよく見かける洗濯物の風景を日本国内で拝められるのは、きっとここくらい。
日本生まれのベティちゃん
ベティスミスこと、Betty Smithも児島で誕生したジーンズメーカー。1962年に創業して以来、ジーンズといってもレディース専門を手掛けてきたという稀有な会社です。
既にビッグジョン(Big John)という国産ジーンズの先駆者が近くにいたことで、ジョンにならい、一般的なアメリカ人女性の名前を付けようということで、ベティスミスが選ばれました。
名前が決まったら、今度はその名前に相応しいキャラクターということで誕生したのが、赤毛にそばかす、それに赤のオーバーオールをルーズに着こなすベティちゃん。チュッパチャップスが似合いそうなポップな容姿は、一度見たら忘れられないインパクトの持ち主です。
ジーンズの歴史を示す「ジーンズミュージアム1」
職人気質でありながら、キャラクターを起用するなど、どこか遊び心が感じられるベティスミス。ジーンズの可能性を広げたい、もっと多くの人たちにジーンズで楽しんでもらいたいという想いから「ジーンズミュージアム&ヴィレッジ」が生まれたのは必然だったのかもしれません。
博物館は2か所あり、どちらも同じ敷地内。まるでウェスタン映画に出てきそうなロッジの「ジーンズミュージアム1」では、ジーンズの歴史にスポットライトを当てています。ただの作業着だったパンツを世界的なファッションアイコンにまで仕立て上げたのには、リーバイス社の活躍が必要不可欠。
こちらにはリーバイス社より提供された、現代につながるジーンズすべての原型「リーバイス501XXの原型」を展示。この1本が始まりとなり、後にスキニーやベルボトム、ダメージ加工などが派生したのかと思うと、ジーンズの原種に触れたような気分になります。
「ジーンズミュージアム2」では、国産ジーンズの歴史と技術がテーマ。1970年代まで稼働していた工場を活用し、当時使われていた機械もそのまま展示しているので、雰囲気は抜群。まるで今にでもミシンの音が聞こえてきそう。
国産ジーンズの歩みを辿る「ジーンズミュージアム2」
そして、知ったのが「洗う」大切さ。今でこそ、買ったばかりでも履きやすいジーンズですが、発売当初はゴワゴワして履きづらかったそう。その問題を解消したのが、洗ってから販売するというひと手間。この方法が1965年、アメリカではなく児島で発明されたことに驚きです。
2つの博物館はどちらも無料。雰囲気も開放的で、好きな人はどっぷりと、そうでない人はささっと見て回れるサイズです。
誰かに向けた1本が日々作られる「縫製工場」
博物館のほかに、敷地内には1962年から今も現役という日本最古のジーンズ工場「縫製工場」もあり、ガラス越しに見学ができます。
訪れたときは土曜日のお昼近く。出勤日ではないものの数人の女性スタッフさんが作業中。さすが、アパレル関係とあって、遠目からでもオシャレさんな印象でした。
ゆっくりと見て回りたい「ストア&アウトレット」
歴史や技術を学ぶことは尊いことですが、きっと多くの人がお目当てに訪れているのが「ストア&アウトレット」。アウトレットという響きを拒む人はいないはず。
ジーンズをはじめ、ベティちゃんのTシャツやポーチなど幅広いアイテムが並び、見れば見るほど購買意欲をかき立てるものばかり。特にジーンズの後ろ部分を模したポーチはキュートなデザイン!おみやげにと言いつつ、自分に似合うジーンズを本気で探してしまいそうです。
ちなみに週末になると、ドームマルシェもアウトレットの会場に早変わり。試作品や一点物など掘り出し物を見つけるチャンスです。
入口前には、ベティちゃんの顔ハメ看板があり、記念撮影のスポット作りにも余念なし。「せっかく来ていただくのなら見るだけじゃなく体感してほしいですからね」と微笑むのが、代表取締役社長の大島康弘さん。
ミュージアムでの熱の入った解説を聞きながら、確固たるジーンズ愛に感服しつつ(冒頭でのジーンズは地球着という名言も、ご察しの通り大島さんです)、さらに感じたのが「楽しい場をつくりたい」という想い。
お気に入りの1本を自ら作る「体験工場」
「多くの人に楽しんでほしい。それもジーンズで」と、もはやファッションではなくレクリエーションと、とどまるところを知らないジーンズですが、「体験工場」では文字通り、ジーンズが面白いです。
体験工場では、自分好みのオリジナルジーンズを一から作るものから、デニム生地を使ってオリジナルのキーホルダーやポーチを作る体験ができます。
ジーンズの象徴といえる、ポケットに打ち込まれたリベット。色や形が違う、たくさんのリベットから自分好みを選んで、自ら打つ体験はなかなかできないもの。手で調整しつつ足も使いますが、意外とペダルが重くて苦戦。ジーンズ作りはホームページ、小物作りの問い合わせはお電話で。
ちなみにデニム・ジーンズ・ジーパンと似たような単語がありますが、デニムは生地、デニムから作るパンツをジーンズだと知りました。ジーパンは和製英語ですが、この際、日本製ジーンズを略してジーパンにしてみては?と一人思いついたりして。
こんな人に行ってほしい!
ぜひ服に興味がない方(特に女性!)にこそ、「ベティスミス」がおすすめです。だって、ここを訪れたなら自分に似合うジーンズが見つかるから。日本人仕様にデザインされたジーンズは自分の短所を長所に変えてくれる、良き理解者になるはずです。
そして、今回男性用のジーンズを試着して体感したのが、やっぱり男性用より女性用の方が身体にしっくりきます。腰回りや太もものフィット感、快適性が全然違うので、やっぱりそれぞれの性別に合った服を着るのが一番だと実感しました。
例えば、お腹まわりが立派になり、ゴムのスカートが手放せないお母さんがいて、偶然テレビで出川さんがジーンズを可愛く履いている姿を見入っているのを発見したら、お父さん(もしくは母の日前のお子さん)、誘ってみて。オシャレを忘れていた女性たちをときめく少女に変えちゃう、そんな魔法をかけてくれるのがジーンズなら、さしずめ「ベティスミス」は魔法使いですかね。
※同じく岡山の手工芸ということで、「岡山x日本刀:刀剣愛が止まらない!職人技を間近で拝見『備前おさふね刀剣の里』」と「岡山x備前焼:すべての製作過程が見られる『一陽窯』」も掲載中です。ぜひご覧ください。
■ベティスミス ジーンズミュージアム&ヴィレッジの基本情報■
住所:岡山県倉敷市児島下の町5-2−70
電話番号:086-473-4460
営業時間:10:00〜17:00(昼休憩12:00〜13:00)
定休日:年末年始
https://betty.co.jp/
2022年5月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。