岡山x日本刀:刀剣愛が止まらない!職人技を間近で拝見「備前おさふね刀剣の里」

日本刀の産地として歴史に名を連ねる武将さえも虜にした岡山県長船(おさふね)。日本刀をテーマにした「備前おさふね刀剣の里」には、工房と博物館、そしておみやげ屋さんが集結。

職人が常駐する工房ではその技に惚れ惚れし、ほど良い展示数にまとめられた博物館では煌びやかな一面、しきたりが潜む日本刀の世界を探検。終わるころには、意外と刀剣好きな自分を発見できるかも。

備前刀というブランド

岡山と日本刀の歴史を辿ると、平安時代末期まで遡ります。ちょうど今(2022年)のNHK大河ドラマと同じころで、平氏と源氏が争うことで刀の需要が急上昇。そのため良質な砂鉄があった備前(昔の岡山県)に刀鍛冶が集まります。

平安時代から江戸時代にかけての生産量は日本一を誇り、町の様子は「鍛冶屋千軒」と言われ、ついには「西の武器庫」と何だか物騒な言われようですが、道を歩けばカチンカチンと小気味よい音が響き渡る様子は体験してみたいものです。

技術が結集した美術品

刀に関してド素人な私は、刀って鍛冶師が打って完成かと思っていたら、とんだ勘違いでした。刀身に彫刻したり、鞘に漆を塗ったりと複数の職人さんらが携わっていて…、ようやく仕上がるんですね。

日本刀って「口(ふり)」や「本」と数えるのも初めて知りましたが、何が言いたいかというと、「刀1口」といっても匠の多彩な技が結集して完成した、まさに芸術品と呼ぶに足るものだったのです。

匠の技を見て、聞いて、驚く

「備前おさふね刀剣の里」は、日本刀に携わる職人さんが常駐している全国でも唯一の場所。刀匠・塗師・金工師の方々が工房で作業している様子を数センチ先で見学できるほか、会話もできちゃうのが最大の魅力です。

「今、何をなさっているのですか?」と作業全般の話から、「漆はどこ産を使用しているのですか?」と詳しいことまで、気になることを矢継ぎ早に聞けるから、どんどん刀剣の世界に引き込まれます。

織田信長やら武田信玄といった武将が持つ武器として認識される日本刀は、歴史がどうしても付きまといます。しかし、今も新しい刀を作り続けている職人さんに話を聞くことで現代の日本刀事情を知れるのも珍しいことです。美術品という一面もあり、20万円程度で購入できるのだとか。

定期的にイベントも開催。「日本刀観賞マナー講座」では、日本刀のいろはを教えてもらえます。触れる際は刀を傷つけないよう、時計やアクセサリーなど触れる恐れがあるものは全部外す念の入りよう。でも、江戸時代の歴史的価値があるものに触れる場合もあるのですから、何かあっては大変。

まずは刀に一礼します。まるで試合に挑む剣道部員のような「いざ、参らん」という気分。観賞ポイントは、刀の長さや厚み(摩耗するので鎌倉時代は薄く、江戸時代は厚いとのこと)、刀文や柄の部分だと教えられますが、手にした瞬間から重みがズシリと感じられ、ただただ緊張。

何かあっては一大事というプレッシャーも加わり、しげしげと眺めるどころか持てた時点で良い記念になったと充足感。臆することなく、軽々と扱う講師の方々は眩しかったです。職人らしい渋い佇まいがまた日本刀には合っていて、さながら女子高生とフォトプロップのような関係性。

他にも、五寸釘を研いでペーパーナイフを製作する講座があり、ホームページより予約ができます。

博物館もお見逃しなく

備前おさふね刀剣の里の敷地は広く、職人さんがいる工房とは別に「備前長船刀剣博物館」もあり、こちらも見応えたっぷり。

日本刀が何ぞやという歴史から始まり、完成までの工程など、ここを網羅すれば日本刀の知識はバッチリ。新発見と学びの連続でした。

実物の日本刀も多く展示されていますが、演出方法がお見事。日本刀好きの職員さんが奮闘し、1口1口それぞれの美しさが最大限発揮されるよう照明や配置、解説文にこだわるなど、愛が感じられる空間に仕上がっています。ここにいる日本刀は内からも外からも愛でられて幸せだろうな。

熱のこもった解説を聞けたおかげで、太刀(たち)と刀(かたな)の違いも学べました。初期に登場する太刀は、貴族や武将のみが帯同を許され、後期に登場する刀はそれよりも下級の武士用だったとか、使える色も階級によって厳格に定められていたとか。

さらに新鮮だったのが、クールな印象の日本刀は意外とナイーブだったということ。一年を通しての展示は刀の負担になるので、常設展は回避。代わりに2か月ごとに特別展を開催しているのだから、頻繁にテーマを考えたり、入れ替え作業をしたりと常にフル回転です。

そして、この博物館を一躍有名にさせたのが国宝「山鳥毛(さんちょうもう」ではないでしょうか。「やまとりげ」という直球な読み方もOK。山鳥の羽毛のような刃文が浮かび上がっているという名前の由来が既にオシャレです。

上杉謙信の愛刀で、その養子の景勝にも引き継がれたとされています。備前刀だったことから、博物館の目玉にしようと乗り出し、募った金額は5億円に上ります。

普段は大切に保管されている山鳥毛ですが、なんと2022年8月11日~9月25日の期間限定で、お披露目の予定。博物館の威信をかけた名刀を拝められる絶好のチャンスです。おみやげ屋さんでは、御朱印ならぬ山鳥毛の御刀印(ごとういん)と刀文が描かれた御刀印帳も販売しています。

こんな人に行ってほしい!

刀剣好きはもちろん、刀剣乱舞好きな人もぜひ。ある程度の知識があった方が知っている日本刀と再会できたことで、より愛着が湧くというか、運命を感じられるはず。解説文がとにかく丁寧なので、私のようなド素人ものめり込めます。

また職人さんが黙々と作業しているお姿も凛々しく、満足いくまで凝視が許される数少ない場所です。皆さん、対応にも慣れていて、写真撮影にも快く応じてくれます。

例えば、数年付き合っていた相手にこっぴどく振られた彼女が、相手への復讐を考えるうちに備前おさふね刀剣の里に行きついちゃって、1口1口吟味しているんだけど、あまりにも刀剣の美しさ、職人さんの技巧に惚れ惚れしちゃって、「あんな奴には惜しい」と改心。人を傷つける武器から一転、人の命を救う可能性を秘めております。

※同じく岡山の手工芸ということで、「岡山x国産ジーンズ:博物館・アウトレット・体験が揃う『ベティスミス』」「岡山x備前焼:すべての製作過程が見られる『一陽窯』」も掲載中です。ぜひご覧ください。


■備前おさふね刀剣の里の基本情報■
住所:岡山県瀬戸内市長船町長船966
電話番号:0869-66-7767
営業時間:9:00~17:00(最終入場 16:30)
休館日:毎週月曜(休日の場合は翌日)、祝日の翌日(土日は除く)、12月28日~1月4日、展示入れ替え期間(ホームページに記載)
※人数制限をしているため、事前予約がおすすめです。予約はこちらから
https://www.city.setouchi.lg.jp/site/token/

2022年5月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。