「あなたは何人ですか?」と海外にいたら結構聞かれる質問。「(日本国籍だから)日本人です」と見た目もアジア系だし、日本という国も結構知られているので、「How are you?」と同じ熱量で返答してます。しかし、今回お会いしたワッカスさんが放った「クルド人です」という言葉には、自分にはない誇りと確かな意思が感じられました。
日本初で唯一のクルド料理レストラン
ワッカス・チョーラク(Vakkas Colak)さんは、JR埼京線十条駅の目の前という好立地にあるクルド料理レストラン「メソポタミア」のオーナーです。店内にはクルドの旗をはじめ、銀細工などクルドの関連品が並び、濃紺に染まった壁から視線を窓に移せばビル夜景でなく、砂漠が見えてきそうな異国情緒が感じられます。
ワッカスさんとのご縁は、私が所属する団体「Lunch Trip」のイベント関係で。各国や文化に通ずるガイドさんを招き、パッセンジャーことイベント参加者の方々と一緒に色々学んでいこうという活動をし、そのとき取り組んでいたテーマが「日本にいるクルド難民の子どもたち」でした。
知れば知るほど奥が深い、クルド人
西アジアのチグリス川、ユーフラテス川に起源を持つクルド人は、「国を持たない世界最大の民族」と認識され、その人口は3,500~4,800万人ともいわれています。多くがトルコ、イラン、イラクなどで暮らしていますが、迫害や差別を受けることもあり、ヨーロッパやアジアに移住することも。
複数の国にまたがって暮らしているため、クルド語も住む国によって方言のように言葉が多少変わります。そして、宗教についても多くがイスラム教徒ですが、厳しい戒律はなく、キリスト教、ユダヤ教、民族宗教のヤジディ教を信じる人もいるなど、知れば知るほど「クルド人ってどんな人なんだろう?」「どんな人をクルド人と呼ぶんだろう?」と、自分では掴めない、霧のような存在だと思い始めました。
クルド文化の認知度向上に取り組むワッカスさん
そこでクルド料理を取材しようとメソポタミアを訪れる、同じ団体スタッフについていき、ワッカスさんとお話ができたのです。ワッカスさんはトルコで生まれ、マレーシアで教育を学び、現在も東京外国語大学でクルド語の講師を務めるなど、多岐にわたって活躍中。
さらに、初となる日本語によるクルド語辞書を編纂した経験も持っていて、それもすべては少しでもクルドのことを日本で知ってもらえるように。流ちょうな日本語の奥底には、切なる願いが秘められています。
流されず、固い意志のもとで繋いできた文化
メソポタミアは、羊や鶏肉を串焼きにしたケバブ、甘いパイ菓子のバクラヴァ、極めつけはカラフルな色彩が散りばめられたトルコランプなど、クルドのことを知らない人からしたらトルコ色を強く感じますが、それもそのはず。トルコは様々な民族が集まった多民族国家なので、そこにはクルドの要素も含まれているのです。
だからこそ、「トルコ料理に似てますね」という言葉にも、「いえ、これはクルド料理です」と素早くワッカスさんは応えます。また「言葉や宗教でも共通点がないクルド人の方々は、何を思ってご自身をクルド人だと認識されるのですか?」という問いには、「文化です。クルド人にはクルドの文化があります」と即答。
その言葉に宿る確固たる想い、そして文化という見えないものに潜む危うさ、脆さにハッとさせられました。自分たちが意識して繋いできたからこそ、ほかの文化に同化や吸収されず、続いてきた文化。担い手の意思に託されるからこそ、トルコ人ではなくクルド人だと言い切るワッカスさんの目はまっすぐで、圧倒されます。
違う考えの人たちとつくる、これからの世界
色々なニュースを見てると、男性や女性、アジア人に白人や黒人と違いを示す言葉が飛び交っていて、そんな違いを際立たせる名称は捨てて、みんなが一人の人間を意味する「ひと」で良いじゃないかと面倒くさがり屋の私は思ってしまいます。
でも、その違いを大切にしている人も確かにいる。自分が自分であるために、これがあるから自分だと言えるもの。自分が誰かを知っているからこそ、ワッカスさんの足場は固く、目指す先も迷いがありません。
文化や民族などを通り越して、自分とは違う考えを持つワッカスさん。それでも応援したい気持ち、もっと知りたいと思うのは、彼が本当に自分たちの文化を大切にしている、誇りを持っていることが伝わってくるから。違いを尊重し合える世界に欠けていい人はいません。
<メソポタミアの基本情報>
住所:東京都北区上十条1-11-8 3階
電話番号:03-5948-8649
営業時間:11:00~23:00
定休日:月曜
アクセス:十条駅から徒歩2分
https://mesopotamiajp.jimdofree.com/